熱もなく、喉の痛みも抗菌薬で数日で治まった。これで一安心、と思いきや、大人の溶連菌感染症で本当に怖いのは、その「後」にやってくる合併症です。症状が軽いからと油断して、抗菌薬を途中でやめてしまったり、そもそも受診せずに放置したりすると、忘れた頃に深刻な病気が発症するリスクがあります。溶連菌感染症の二大合併症として知られているのが、「急性糸球体腎炎」と「リウマチ熱」です。これらの病気は、溶連菌そのものが直接臓器を攻撃するのではなく、溶連菌に対する体の免疫反応が、誤って自分自身の組織(腎臓や心臓、関節など)を攻撃してしまうことで起こる、一種のアレルギー反応のようなものです。まず「急性糸球体腎炎」は、溶連菌感染から一週間から三週間後くらいに発症します。腎臓の血液を濾過する部分である「糸球体」に炎症が起こり、機能が低下します。主な症状は、尿の色がコーラのように赤黒くなる「血尿」、まぶたや足の「むくみ(浮腫)」、そして「高血圧」です。頭痛やだるさを伴うこともあります。ほとんどの場合は安静と食事療法で回復しますが、一部では腎機能障害が残ることもあり、入院治療が必要となります。次に「リウマチ熱」です。これは感染から二週間から四週間後に発症し、心臓、関節、神経、皮膚に多彩な症状を引き起こします。複数の関節が移動しながら腫れて痛む「移動性多発関節炎」、心臓の筋肉や弁に炎症が起こる「心炎」、手足が勝手に動いてしまう「舞踏病」などが特徴です。特に心炎は、心臓の弁に障害を残し、将来的に「リウマチ性心臓弁膜症」という後遺症に繋がる可能性があり、最も警戒すべき合併症です。これらの合併症は、現在では衛生環境の改善や抗菌薬の普及により、発症頻度は大きく減少しました。しかし、リスクがゼロになったわけではありません。合併症を予防する最も確実で唯一の方法は、溶連菌に感染した際に、処方された抗菌薬を医師の指示通り、最後まで完全に飲み切ることです。熱がない、症状が軽い、と感じても、それは決して油断して良い理由にはなりません。見えない未来のリスクを回避するために、目の前の治療を真摯に全うすることが何よりも重要なのです。
喉の痛みから一転。大人の溶連菌が引き起こす合併症