本格的な夏が到来すると、メディアでは熱中症予防のために「こまめな水分補給」や「適切な室温管理」が盛んに呼びかけられます。これらはもちろん非常に重要ですが、実は、私たちの体自身も、熱中症の危険が迫っていることを事前に教えてくれる警告サインを発しています。その見過ごされがちなサインこそが、「食欲不振」や「胃の軽い不快感」といった、消化器系の小さな不調です。暑い日が続くと、なんとなく食欲がわかない。「夏バテかな」と多くの人が考えがちですが、これは単なるバテではありません。体がすでに軽度の脱水状態にあり、体温調節のために消化管への血流を減らし始めている、という初期の防御反応の現れなのです。胃腸は、体の中でも特に環境の変化に敏感な臓器です。体が暑さというストレスに晒されると、自律神経のバランスが乱れ、消化機能は真っ先に低下します。つまり、胃腸の不調は、「これ以上、体に熱がこもると危険ですよ」「本格的な熱中症になる前に、体を冷やして、水分を補給してください」という、体からの早期警戒情報と言えるのです。この事前警告を無視して、「食欲がないから」と食事や水分を十分に摂らないまま過ごしていると、どうなるでしょうか。体はエネルギー不足と水分不足に陥り、脱水はさらに進行します。そして、いざ炎天下で活動したり、少し無理をしたりした途端に、めまいや頭痛、吐き気といった、より明確な熱中症の症状が一気に現れ、危険な状態に陥ってしまうのです。熱中症の予防は、喉が渇いてから水分を摂るのでは遅い、と言われますが、それと同様に、胃腸の不調を感じてから対策を始めることが非常に重要です。夏場に、いつもより食欲がない、胃がもたれる、といった感覚があれば、それは体が発するイエローカードです。そのサインをキャッチしたら、意識的に涼しい場所で休憩する時間を増やし、食事は消化の良いものを選び、そして何よりも経口補水液やスポーツドリンクで、水分と電解質を積極的に補給するようにしましょう。胃腸の声に耳を傾けること。それが、本格的な熱中症を未然に防ぐ、最も賢い予防策の一つなのです。
熱中症予防。胃腸の不調は体からの事前警告