手足口病という病名は、その特徴的な症状が現れる部位を的確に示していますが、なぜウイルスは「手」「足」「口」という特定の場所を選んで発疹を作るのでしょうか。そして、その中でも「足の甲」が好発部位の一つとなるのはなぜなのでしょうか。その背景には、原因となるウイルスの性質と、私たちの体の構造が深く関わっています。手足口病を引き起こすのは、主にコクサッキーウイルスやエンテロウイルス71といった、エンテロウイルス属に分類されるウイルスたちです。これらのウイルスは、経口感染または飛沫感染によって体内に侵入し、腸管で増殖した後、血流に乗って全身へと広がります。ウイルスが全身を巡る中で、特に炎症反応を起こしやすい場所、つまりウイルスにとっての「居心地の良い場所」が、手のひら、足の裏、そして足の甲や口の中の粘膜なのです。これらの部位にはいくつかの共通点があります。一つは、体の末端に位置し、比較的体温が低い傾向があることです。エンテロウイルス属の中には、やや低い温度環境を好んで増殖するタイプがあるため、体の中心部よりも手足の末端で症状が出やすいと考えられています。もう一つの重要な要因が、「物理的な刺激」です。手のひらや足の裏、足の甲は、日常生活において、物をつかんだり、歩いたり、靴と擦れたりすることで、常に外部からの刺激を受けている部位です。こうした微細な刺激や圧迫が、その部分の毛細血管の透過性を高め、血流に乗ってきたウイルスが血管の外へ漏れ出しやすくするのではないか、という説があります。つまり、ウイルスが炎症を起こす「きっかけ」が、これらの部位には豊富に存在するのです。足の甲も、歩行時の屈曲や靴との接触など、日常的に多くの刺激を受けています。これが、足の裏と同様に足の甲も発疹の好発部位となる大きな理由と考えられます。手足口病の発疹の分布は、単なる偶然ではなく、ウイルスの性質と私たちの体の機能が織りなす、合理的な結果であると言えるのかもしれません。
なぜ手足口病の発疹は足の甲に出やすいのか