溶連菌感染症と聞くと、多くの人が「子供がかかる、高熱と喉の激痛を伴う病気」というイメージを持つでしょう。確かに、それは典型的な症状の一つです。しかし、大人が感染した場合、必ずしも教科書通りの症状が出るとは限りません。特に注意が必要なのが、「熱が出ない」あるいは「微熱程度で済んでしまう」ケースです。熱が出ないと、本人は「ただの喉の風邪だろう」「疲れが出たのかな」と自己判断してしまいがちです。しかし、その喉の痛みや違和感の背後には、治療が必要な溶連菌が潜んでいる可能性があります。なぜ、熱が出ないことがあるのでしょうか。大人は子供に比べて、様々な細菌やウイルスに対する免疫をある程度持っています。そのため、溶連菌に感染しても、体の免疫システムが過剰に反応せず、高熱といった派手な全身症状が出にくいことがあるのです。症状が喉の局所的な炎症にとどまってしまうため、本人も周囲も病気の重要性に気づきにくいという落とし穴があります。しかし、熱がないからといって、溶連菌感染症が軽症であるとは一概に言えません。治療せずに放置してしまうと、溶連菌は体内で静かに生き残り、後になって深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。代表的な合併症が「急性糸球体腎炎」と「リウマチ熱」です。急性糸球体腎炎は、むくみや血尿、高血圧などを引き起こす腎臓の病気で、感染から数週間後に発症します。リウマチ熱は、心臓や関節、神経に炎症を起こす病気で、心臓弁膜症という後遺症を残すこともあります。これらの合併症は、溶連菌に対して体の免疫が異常な反応を起こすことで生じます。熱がないからと油断し、原因菌を抗菌薬でしっかりと叩いておかないと、こうした未来のリスクを高めてしまうのです。したがって、たとえ熱がなくても、「喉の強い痛み」「ものを飲み込む時の激痛」「舌がイチゴのようにブツブツになる(イチゴ舌)」「体に細かい赤い発疹が出る」といった症状が一つでも見られた場合は、溶連菌感染症を疑い、早めに医療機関を受診することが極めて重要です。