熱がない、あるいは微熱程度の症状でも、喉の痛みから溶連菌感染症と診断された場合、その治療は子供の場合と基本的に同じであり、非常に重要です。治療の目的は、単に喉の痛みを和らげることだけではありません。最も大切な目的は、体内にいる溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)を完全に除去し、将来起こりうる深刻な合併症(急性糸球体腎炎やリウマチ熱)を予防することにあります。そのために不可欠なのが、「抗菌薬(抗生物質)」の服用です。溶連菌感染症の治療に最も有効で、第一選択薬として用いられるのが、「ペニシリン系」の抗菌薬です。アモキシシリンなどが代表的な薬で、通常はこれを十日間、処方通りに服用します。ペニシリンにアレルギーがある場合には、セフェム系やマクロライド系の抗菌薬が代替薬として用いられます。ここで、大人だからこそ陥りやすい落とし穴があります。それは、「症状が消えたからといって、自己判断で薬の服用をやめてしまう」ことです。抗菌薬を飲み始めると、二、三日で喉の痛みや他の症状は劇的に改善します。熱がなかった場合は、まるで病気が治ったかのように感じられるでしょう。しかし、症状が消えたからといって、喉にいる溶連菌が完全にいなくなったわけではありません。ここで薬をやめてしまうと、生き残った少数の菌が再び増殖したり、あるいは体内に潜伏し続けて、後々の合併症の引き金になったりするリスクが残ります。そのため、たとえ症状が全くなくなったとしても、医師から指示された期間(通常は十日間)、必ず抗菌薬を最後まで飲み切ることが絶対に必要なのです。これは、合併症予防のための、いわば「お守り」のようなものです。また、溶連菌は感染力が強いため、家族など周囲の人にうつさないための配慮も必要です。抗菌薬を飲み始めてから二十四時間が経過すれば、感染力はほぼなくなるとされています。それまでは、マスクの着用や手洗いを徹底し、食器やタオルの共用は避けるようにしましょう。熱がないからと軽く考えず、処方された薬を真面目に飲み切ること。それが、大人の溶連菌感染症治療における最大の責務です。
溶連菌と診断されたら。大人が注意すべき治療と薬