高齢者にとって、肺炎は時に命を奪うことさえある、非常に危険な病気です。日本の死因統計でも、常に上位に位置しています。その理由は、加齢に伴う免疫力の低下や体力の衰えに加え、若い人の肺炎とは異なる特徴を持っているからです。家族や周囲の人が、その特徴と危険なサインを知っておくことが、高齢者の命を守る上で極めて重要になります。高齢者の肺炎の最大の特徴は、「症状がはっきりと現れにくい」ことです。若い人であれば、高熱や激しい咳、色のついた痰といった典型的な症状が出ますが、高齢者の場合は、これらのサインが見られない「非定型的な肺炎」が少なくありません。熱が出ても微熱程度であったり、咳や痰がほとんど出なかったりします。その代わりに現れるのが、「なんとなく元気がない」「食欲が全くない」「ぐったりしている」「意識がぼんやりしている」「おむつをいじるなど、普段と違う行動をとる」といった、一見すると肺炎とは結びつかないような、漠然とした全身状態の変化です。こうした変化は、「年のせいだろう」と見過ごされてしまいがちですが、実は体内で重い肺炎が進行しているサインである可能性があります。家族が「いつもと違う」という些細な変化に気づくことが、早期発見の唯一の手がかりとなるのです。また、高齢者の肺炎で特に多いのが「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」です。これは、食べ物や飲み物、あるいは唾液が、誤って気管に入ってしまう「誤嚥」によって、口の中の細菌が肺に流れ込むことで起こります。食事中にむせることが多くなった、飲み込みにくそうにしている、声がガラガラしているといった症状は、誤嚥のリスクが高まっているサインです。では、どうすれば高齢者を肺炎から守れるのでしょうか。最も有効な予防策が「ワクチン接種」です。肺炎の原因菌として最も多い肺炎球菌に対する「肺炎球菌ワクチン」と、肺炎のきっかけとなりやすい「インフルエンザワクチン」の二つを接種することが強く推奨されています。さらに、日頃からの「口腔ケア」も非常に重要です。口の中を清潔に保つことで、誤嚥した際に肺に入る細菌の量を減らすことができます。家族による見守りと、ワクチン、口腔ケア。この三本の柱で、大切な家族を肺炎のリスクから守りましょう。