誰でも、心配事があったり、生活リズムが崩れたりして、一時的に眠れなくなることはあります。しかし、それが単なる「寝不足」のレベルを超え、治療が必要な「不眠症」という病的な状態であることを見極めるには、いくつかの重要なサインがあります。自分の状態が受診を必要とするレベルなのかどうか、客観的にチェックしてみましょう。まず、不眠症は、その症状の現れ方によって主に四つのタイプに分けられます。一つ目は、ベッドに入ってもなかなか寝付けない「入眠障害」。二つ目は、夜中に何度も目が覚めてしまう「中途覚醒」。三つ目は、朝早くに意図せず目が覚め、その後眠れない「早朝覚醒」。そして四つ目は、睡眠時間は足りているはずなのに、ぐっすり眠れた感じがしない「熟眠障害」です。これらの症状が、複合的に現れることも少なくありません。では、これらの症状がどのくらいの頻度と期間続けば、受診を考えるべきなのでしょうか。専門的な診断基準では、一般的に以下の三つの条件が目安とされています。一つ目は「頻度」です。上記の四つの症状のいずれかが、「週に三日以上」見られること。二つ目は「期間」です。その状態が、「一ヶ月以上」続いていること。そして、これが最も重要なポイントですが、三つ目は「日中への影響」です。眠れないことによって、日中に倦怠感、意欲低下、集中力困難、食欲不振、気分の落ち込み、イライラ、日中の眠気といった、心身の不調が現れ、仕事や家事、学業などの社会生活に支障をきたしている状態です。つまり、夜眠れないこと自体が問題なのではなく、その結果として「日中の生活の質(QOL)が低下している」かどうかが、治療が必要な不眠症と、一時的な寝不足とを分ける決定的な違いなのです。もし、これらの三つの条件に当てはまるようであれば、それは意志の力だけで解決できる問題ではありません。脳の機能的な不調が起きているサインと捉え、専門家である精神科や心療内科の助けを求めることを強くお勧めします。