夏の厳しい暑さの中、めまいや立ちくらみ、大量の汗といった症状が現れると、多くの人が「熱中症かもしれない」と警戒します。これらは確かによく知られた熱中症のサインですが、実は見過ごされがちな、しかし非常に重要な初期症状の一つに「胃の不快感」があります。なんとなく胃がムカムカする、食欲が全くわかない、吐き気がする。こうした消化器系の症状は、体が熱中症の危険領域に足を踏み入れていることを示す、重要な警告サインなのです。では、なぜ熱中症で胃が気持ち悪くなるのでしょうか。そのメカニズムは、体の防御反応と深く関わっています。高温環境下で体温が上昇すると、私たちの体は、体温を下げるために懸命に働きます。その最も重要な手段が、皮膚の血管を拡張させて血流を増やし、体内の熱を外へ逃がすことです。この時、体は生命維持に不可欠な脳や心臓への血流を優先的に確保しようとするため、相対的に、消化管(胃や腸)への血流が減少してしまいます。血流が減った胃や腸は、正常に機能することができなくなります。胃の動き(蠕動運動)は鈍くなり、消化液の分泌も低下します。その結果、食べ物が胃に停滞しやすくなり、胃もたれやムカムカ感、吐き気といった不快な症状が引き起こされるのです。つまり、胃の気持ち悪さは、「今、体は皮膚から熱を逃がすことに全力を注いでいて、消化活動にまで手が回りません!」という、体からの悲鳴にも似たメッセージなのです。この初期サインを見逃し、適切な対処をせずに暑い場所に居続けたり、水分補給を怠ったりすると、症状はさらに進行します。頭痛や倦怠感が強まり、やがては意識障害や痙攣といった、命に関わる重篤な状態(重症熱中症)へと移行してしまう危険性があります。夏の屋外活動中や、暑い室内で過ごしている時に、原因不明の胃の不快感や吐き気を感じたら、それは単なる夏バテや食あたりではありません。熱中症の初期症状である可能性を強く疑い、直ちに涼しい場所へ避難し、水分と塩分を補給するという、基本的な応急処置を徹底することが何よりも重要です。
熱中症の隠れたサイン。胃の不快感を見逃すな