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不眠症の初診。病院では一体どんなことをするの?
不眠で悩んでいても、「病院に行ったら何をされるのだろう」という不安から、受診をためらってしまう方は少なくありません。しかし、実際の診察の流れを知っておけば、その不安は大きく和らぎます。不眠症の初診は、主に患者さんの話をじっくりと聞くことから始まります。まず、診察室で行われるのが、非常に重要な「問診」です。医師は、診断の手がかりを得るために、様々な角度から質問をします。例えば、「いつから、どのような眠れなさに悩んでいるか(入眠困難、中途覚醒など)」「ベッドに入ってから実際に眠るまで、どのくらい時間がかかるか」「夜中に何回くらい目が覚めるか」「週に何日くらい眠れない日があるか」といった、睡眠に関する具体的な内容です。さらに、日中の状態(眠気、だるさ、集中力など)や、生活習慣(起床・就寝時刻、食事、運動、飲酒・喫煙の習慣)、職業や家庭環境におけるストレスの有無、現在服用している薬、過去の病歴なども詳しく聞き取ります。もし可能であれば、事前に一、二週間程度の「睡眠日誌(ベッドに入った時刻、寝付いた時刻、目が覚めた時刻、起きた時刻、日中の気分などを記録したもの)」をつけて持参すると、より客観的な情報となり、診察がスムーズに進みます。問診と並行して、「心理検査」が行われることもあります。これは、簡単な質問紙に答える形式のもので、不眠の背景に隠れている可能性のある、うつ病や不安障害といった心の状態を評価するために用いられます。身体的な病気が疑われる場合には、「血液検査」で甲状腺ホルモンの値を調べたり、睡眠時無呼吸症候群が強く疑われる場合には、専門の医療機関で「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」という、睡眠中の脳波や呼吸の状態を調べる精密検査を勧められたりすることもあります。これらの問診や検査の結果を総合的に判断し、医師は診断を下し、治療方針を決定します。睡眠薬による治療だけでなく、生活習慣の改善指導や、認知行動療法といった心理的なアプローチも含め、患者さんと相談しながら、最適な治療法を一緒に探していく。それが、不眠症の初診のゴールなのです。
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私がリウマチ専門医にたどり着くまで
三十代半ば、二人の子育てに追われる毎日だった私に、異変が訪れたのはある冬の朝でした。両手の指がパンパンに腫れ上がり、まるで他人の手のようにこわばって、うまく曲げることができません。蛇口をひねるのも、子供の服のボタンを留めるのも一苦労でした。最初は「冷え性の悪化かな」「疲れがたまっているのだろう」と軽く考えていました。しかし、その症状は日を追うごとにひどくなり、手首や足の指の関節までズキズキと痛み始めました。近所の整形外科を受診すると、レントゲンを撮られ、「骨に異常はないですね。使いすぎでしょう。痛み止めと湿布を出しておきます」と言われました。しかし、薬を飲んでも症状は一向に改善せず、むしろ全身のだるさが加わり、微熱も続くようになりました。不安に駆られた私は、インターネットで「朝の手のこわばり」「関節の痛み」といったキーワードで検索を始めました。そこで何度も目にしたのが「関節リウマチ」という病名と、「専門はリウマチ科・膠原病内科」という情報でした。私の住む町には専門科がなかったため、少し足を延ばして、隣の市にある総合病院のリウマチ科を受診することにしました。初めて訪れたリウマチ科で、私の話を聞いた医師は、すぐに私の全身の関節を丁寧に診察し、「リウマチの可能性が高いですね。詳しい検査をしましょう」と言いました。血液検査と関節エコー検査の結果、診断はやはり「関節リウマチ」。抗CCP抗体という項目が非常に高い数値を示していました。診断が確定した時はショックでしたが、同時に、これまでの不調の原因がはっきりしたことに、どこか安堵する気持ちもありました。医師は、病気のこと、そして最新の治療法について、時間をかけて丁寧に説明してくれました。「今は良い薬がたくさんあるから、きちんと治療すれば、前の生活を取り戻せますよ」。その言葉が、私の不安を希望に変えてくれました。あの時、整形外科で満足せず、自分で調べて専門医の扉を叩いたこと。それが、私のその後の人生を大きく変える決断になったと、今、心から感じています。
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関節の痛み、それはリウマチ?整形外科との違い
関節が痛む時、多くの人がまず思い浮かべるのは「整形外科」かもしれません。骨や関節、筋肉といった運動器の専門家である整形外科は、ケガや加齢による変形性関節症などの治療において中心的な役割を果たします。しかし、その痛みの原因が「関節リウマチ」である場合、整形外科だけでは最適な治療が受けられない可能性があります。関節リウマチと、整形外科が主に扱う変形性関節症などとの間には、病気の成り立ちに根本的な違いがあるからです。整形外科が扱う変形性関節症は、主に加齢や長年の負荷によって関節の軟骨がすり減り、骨が変形することで痛みが生じる「機械的な摩耗」が原因です。治療は、痛み止めの処方やヒアルロン酸注射、リハビリテーションが中心となり、最終的には人工関節置換術などの手術が必要になることもあります。一方、関節リウマチは、免疫システムの異常によって関節に炎症が起きる「内科的な炎症性疾患」です。治療の目的は、単に痛みを和らげるだけでなく、異常な免疫反応そのものを抑え込み、炎症を鎮静化(寛解)させ、病気の進行と関節破壊を食い止めることにあります。この免疫をコントロールする治療こそが、リウマチ科や膠原病内科の専門領域なのです。近年のリウマチ治療は目覚ましく進歩しており、メトトレキサートという抗リウマチ薬を基本に、効果が不十分な場合には生物学的製剤やJAK阻害薬といった分子標的薬が用いられます。これらの薬は非常に効果が高い一方で、免疫を抑えることによる感染症などの副作用管理も必要となり、専門的な知識と経験が不可欠です。もちろん、リウマチによって関節の破壊が進んでしまった場合には、整形外科での手術が必要になることもあり、リウマチ科と整形外科が連携して治療にあたることも少なくありません。しかし、病気の活動性をコントロールするという治療の根幹を担うのは、あくまでリウマチ科・膠原病内科です。朝のこわばり、複数の関節の腫れと痛みといった症状があれば、まずは免疫の専門家であるリウマチ科の受診を検討しましょう。
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溶連菌の再発?それとも再感染?大人が知るべき違い
「この間、溶連菌にかかって薬を飲んだばかりなのに、また喉が痛い。再発したのだろうか?」溶連菌感染症を経験した大人が、再び同様の症状に見舞われた時、このような疑問を抱くことがあります。この場合、「再発」と「再感染」という二つの可能性が考えられますが、両者は似て非なるものであり、その原因と対策は異なります。まず「再発」とは、前回の治療で体内にいた溶連菌を完全に除去しきれず、生き残った菌が再び増殖して症状を引き起こすケースを指します。この最も一般的な原因は、処方された抗菌薬を自己判断で途中でやめてしまうことです。症状が消えたからと服用を中止すると、わずかに生き残っていた菌が勢いを盛り返し、数日後から数週間後に再び喉の痛みなどを引き起こします。これを防ぐためには、医師から指示された期間、抗菌薬を最後まで飲み切ることが絶対条件となります。一方、「再感染」とは、前回の治療で一度は完全に治癒したものの、外部から新たに別の溶連菌に感染してしまうケースです。溶連菌には、実は百以上の異なる血清型(タイプ)が存在します。一度あるタイプの溶連菌に感染しても、そのタイプに対する免疫しかできません。そのため、家族や職場で別のタイプの溶連菌が流行していれば、それに新たに感染してしまう可能性があるのです。特に、集団生活を送る子供がいる家庭では、子供が保育園や学校から次々と異なるタイプの溶連菌をもらってきて、それが大人にうつる、というパターンは珍しくありません。また、自分自身の免疫力が低下している時も、普段なら感染しないような少量の菌でも感染しやすくなります。では、再び症状が出た場合、どうすればよいのでしょうか。答えは一つです。前回と同様に、速やかに耳鼻咽喉科や内科を受診し、再度、迅速検査を受けることです。そして、陽性であれば、また新たに抗菌薬による治療を開始する必要があります。それが再発であれ再感染であれ、体内に溶連菌がいるという事実に変わりはなく、合併症のリスクを避けるためには、その都度、確実な治療が求められるのです。溶連菌は、一度治っても油断できない相手だと心得ておきましょう。
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手足口病の時、プールや温泉は絶対NGな理由
子どもが手足口病にかかり、症状が回復傾向にある時、「近所のプールくらいなら大丈夫かな」「温泉でゆっくりさせたいな」と考える保護者もいるかもしれません。しかし、これは絶対に避けるべき行為です。たとえ熱が下がり、本人が元気そうに見えても、手足口病の療養中にプールや公衆浴場、温泉といった不特定多数の人が利用する施設へ行くことは、公衆衛生の観点から、そして子どもの体を守るという観点からも、厳禁です。その理由は、大きく分けて二つあります。第一の、そして最大の理由は、「感染拡大のリスク」です。手足口病の原因となるエンテロウイルスは、非常に感染力が強く、症状が治まった後も、長期間にわたって便から排泄され続けます。プールの水は塩素で消毒されていますが、ウイルスの量が多ければ、完全に不活化できるとは限りません。特に、おむつが取れていない幼児がプールに入ることで、便が水中に漏れ出し、感染源となるリスクは否定できません。また、プールサイドや更衣室の床、ロッカー、シャワーといった場所を、ウイルスが付着した手足で触れることで、接触感染を広げてしまう可能性も非常に高いです。温泉や公衆浴場も同様で、脱衣所の床や椅子、洗い場の桶などを介して、他の利用者にウイルスをうつしてしまう危険性があります。多くのプールや公衆浴場では、手足口病などの感染症にかかっている場合の利用を規約で禁止しています。これは、集団感染を防ぐための社会的なルールであり、保護者として必ず守らなければならないマナーです。第二の理由は、「子どもの体への負担と二次感染のリスク」です。病み上がりの子どもの体力や免疫力は、まだ完全には回復していません。不特定多数の人が集まる場所は、他の様々な細菌やウイルスに暴露されるリスクも高く、別の感染症をもらってしまう可能性があります。また、手足口病の発疹がまだ残っている状態でプールの塩素に長時間触れると、皮膚への刺激となって症状を悪化させたり、掻き壊した部分から細菌が侵入して二次感染を起こしたりする危険性もあります。子どもの体を本当に思うのであれば、全ての症状が完全に消え、医師から集団生活への復帰許可が出るまでは、自宅のお風呂で静かに療養させるのが最善の選択です。
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肺炎と診断されたら。安心して療養するための注意点
肺炎と診断され、自宅での療養(外来治療)となった場合、早く回復するためには、医師から処方された薬を正しく服用することに加えて、日常生活での過ごし方にもいくつかの注意点があります。安静に過ごし、体の回復を最優先させることが基本となります。まず、最も大切なのが「処方された抗菌薬(抗生物質)を必ず飲み切る」ことです。服用を始めて二、三日経つと、熱が下がったり咳が楽になったりして、「もう治った」と感じることがあります。しかし、この段階ではまだ肺の中の細菌が完全にいなくなったわけではありません。ここで自己判断で薬をやめてしまうと、生き残った細菌が再び増殖して病気が再燃したり、薬が効きにくい耐性菌を生み出してしまったりする原因になります。医師から指示された期間、必ず最後まで薬を服用してください。次に、「十分な休養と栄養、水分補給」です。肺炎との戦いは、体力を非常に消耗します。仕事や学校は無理せず休み、できるだけ横になって体を休ませることに専念しましょう。睡眠をしっかりとることも、免疫力を高める上で重要です。食事は、消化が良く、栄養価の高いものを摂るように心がけてください。高熱や咳で食欲がないかもしれませんが、おかゆやスープ、ゼリーなど、食べやすいものから少しずつ口にしましょう。また、発熱や呼吸によって体から水分が失われやすいため、脱水を防ぐために、意識して水分をこまめに摂ることが大切です。部屋の環境を整えることも忘れてはいけません。空気の乾燥は、咳を悪化させたり、痰を出しにくくしたりします。加湿器を使ったり、濡れたタオルを干したりして、室内の湿度を50〜60%程度に保つようにしましょう。定期的な換気も重要です。喫煙は、肺にさらなるダメージを与え、回復を著しく遅らせるため、療養期間中は絶対にやめてください(禁煙するのが理想です)。そして、もし自宅療養中に、息苦しさが悪化する、唇の色が紫色になる、意識が朦朧とするといった症状が現れた場合は、病状が悪化しているサインです。ためらわずに、すぐに病院に連絡するか、救急車を呼んでください。自己管理を徹底し、安全に療養期間を乗り切りましょう。
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家族がリウマチと診断されたら。周囲ができるサポート
もし、あなたのパートナーや親、兄弟といった大切な家族が「関節リウマチ」と診断されたら、ご本人だけでなく、家族も大きな不安や戸惑いを感じることでしょう。病気のことがよく分からず、どう接すればいいのか、何を手伝えばいいのか悩むかもしれません。しかし、家族の理解と適切なサポートは、患者さんが病気と前向きに向き合い、治療を続けていく上で、薬と同じくらい、あるいはそれ以上に大切な力となります。まず、家族がすべき最も重要なことは、「病気を正しく理解する」ことです。関節リウマチが、単なる関節痛ではなく、免疫システムの異常による全身性の病気であること。そして、近年の治療の進歩により、早期に適切な治療を受ければ、多くの人が普通の生活を送れるようになっていること。こうした正しい知識を持つことで、不必要な心配や誤解をなくし、冷静に患者さんを支えることができます。そのためには、ぜひ一度、患者さんと一緒に専門医(リウマチ科・膠原病内科)の診察に同席することをお勧めします。医師から直接説明を聞くことで、病状や治療方針への理解が深まり、家族として何をすべきかが見えてくるはずです。次に、日常生活における「物理的なサポート」です。特に、朝のこわばりが強い時や、関節の痛みが悪化している時には、ペットボトルの蓋を開ける、瓶のジャムを開ける、重い荷物を持つといった、指や手首に負担のかかる作業が非常につらくなります。そうした場面で、「手伝おうか?」と声をかけ、さりげなく代わってあげる優しさが、患者さんの負担を大きく軽減します。また、精神的なサポートも不可欠です。リウマチは、痛みやだるさといった目に見える症状だけでなく、将来への不安や、思うように体が動かないことへの焦り、気分の落ち込みといった、目に見えないつらさを伴います。「痛い」「つらい」という訴えを、「大げさだ」とか「気のせいだ」と否定せず、「そうか、つらいね」と、まずは共感的に耳を傾けてあげてください。ただ話を聞いてくれる存在がいるだけで、患者さんの心は軽くなります。病気と闘うのはご本人ですが、家族は一番身近な応援団です。正しい知識と温かい心で、大切な人を支えていきましょう。
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熱中症予防。胃腸の不調は体からの事前警告
本格的な夏が到来すると、メディアでは熱中症予防のために「こまめな水分補給」や「適切な室温管理」が盛んに呼びかけられます。これらはもちろん非常に重要ですが、実は、私たちの体自身も、熱中症の危険が迫っていることを事前に教えてくれる警告サインを発しています。その見過ごされがちなサインこそが、「食欲不振」や「胃の軽い不快感」といった、消化器系の小さな不調です。暑い日が続くと、なんとなく食欲がわかない。「夏バテかな」と多くの人が考えがちですが、これは単なるバテではありません。体がすでに軽度の脱水状態にあり、体温調節のために消化管への血流を減らし始めている、という初期の防御反応の現れなのです。胃腸は、体の中でも特に環境の変化に敏感な臓器です。体が暑さというストレスに晒されると、自律神経のバランスが乱れ、消化機能は真っ先に低下します。つまり、胃腸の不調は、「これ以上、体に熱がこもると危険ですよ」「本格的な熱中症になる前に、体を冷やして、水分を補給してください」という、体からの早期警戒情報と言えるのです。この事前警告を無視して、「食欲がないから」と食事や水分を十分に摂らないまま過ごしていると、どうなるでしょうか。体はエネルギー不足と水分不足に陥り、脱水はさらに進行します。そして、いざ炎天下で活動したり、少し無理をしたりした途端に、めまいや頭痛、吐き気といった、より明確な熱中症の症状が一気に現れ、危険な状態に陥ってしまうのです。熱中症の予防は、喉が渇いてから水分を摂るのでは遅い、と言われますが、それと同様に、胃腸の不調を感じてから対策を始めることが非常に重要です。夏場に、いつもより食欲がない、胃がもたれる、といった感覚があれば、それは体が発するイエローカードです。そのサインをキャッチしたら、意識的に涼しい場所で休憩する時間を増やし、食事は消化の良いものを選び、そして何よりも経口補水液やスポーツドリンクで、水分と電解質を積極的に補給するようにしましょう。胃腸の声に耳を傾けること。それが、本格的な熱中症を未然に防ぐ、最も賢い予防策の一つなのです。
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大人がかかると激痛?手足口病の足の甲の症状
手足口病は一般的に子供の病気というイメージが強いですが、免疫がなければ大人も感染します。そして、大人が手足口病にかかった場合、子供に比べて症状が格段に重くなる傾向があり、特に足の甲や足の裏に現れる発疹は、耐え難いほどの痛みを伴うことがあります。子供の場合、足の発疹はかゆみを伴うこともありますが、痛みを訴えることは比較的少ないか、あっても軽度なことが多いです。しかし、大人が発症すると、その痛みは全く次元が異なります。多くの経験者が「画鋲を靴の中に入れて歩いているよう」「針で絶えず突き刺されているような痛み」と表現するように、非常に鋭く、激烈な痛みが特徴です。この痛みは、足の甲や足の裏にできた水疱性の発疹が、体重をかけることや歩行による物理的な刺激で圧迫されることによって生じます。そのため、立っているだけで激痛が走り、歩行が困難になるケースも少なくありません。靴を履くことはおろか、靴下が触れるだけで痛むため、仕事や日常生活に大きな支障をきたします。発疹の見た目自体は子供の場合と大きく変わりませんが、数が多く、より広範囲に広がる傾向があります。足の甲から足首、さらにはすねの方まで発疹が及ぶこともあります。この激しい痛みは、発疹が出現してから数日間がピークで、その後徐々に和らいでいきますが、完全に痛みが引くまでには一週間以上かかることもあります。このつらい時期を乗り切るためには、できるだけ安静にし、歩行を最小限にすることが何よりも大切です。仕事も可能であればデスクワークに切り替えてもらったり、在宅勤務にしたりといった配慮が必要になるでしょう。また、患部を冷やすことで痛みが多少和らぐこともあります。大人の手足口病は、単なる夏風邪と侮ってはいけません。特に足の甲や裏の激痛は、この病気の最もつらい症状の一つであり、十分な休養と対症療法が不可欠であることを覚悟しておく必要があります。
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熱のない溶連菌。職場や家庭での感染対策は必要?
自分が溶連菌と診断された時、あるいは家族が感染した時、特に熱がないと「感染力は弱いのかな」「周りの人にうつる心配はないのだろうか」と疑問に思うかもしれません。結論から言うと、たとえ熱がなくても、溶連菌感染症である以上、その感染力は変わりません。適切な感染対策は必須です。溶連菌の主な感染経路は、咳やくしゃみによって飛び散る飛沫を吸い込む「飛沫感染」と、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることによる「接触感染」です。熱の有無は、この感染力に直接的な影響を与えません。喉にいる溶連菌の数が多ければ、それだけ飛沫に含まれる菌の量も多くなり、感染のリスクは高まります。では、具体的にどのような対策が必要でしょうか。まず、患者さん本人が行うべき最も重要な対策は「マスクの着用」です。会話や咳によって飛沫が周囲に拡散するのを防ぐことができます。次に「手洗い・手指消毒」の徹底です。無意識に口元に触れた手で、ドアノブや共有の物品に触れると、そこから接触感染が広がる可能性があります。石鹸と流水による手洗いや、アルコール消毒をこまめに行いましょう。家庭内での対策としては、タオルの共用を避けることが挙げられます。食器や箸については、通常の洗浄で問題ありませんが、気になる場合は分けて洗うとより安心です。職場への出勤については、どう考えればよいでしょうか。学校保健安全法では、溶連菌感染症は「条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる疾患」とされています。大人の場合、法律による明確な出勤停止の規定はありませんが、感染拡大を防ぐという観点から、職場と相談の上で対応を決めるのが望ましいでしょう。一般的に、溶連菌の感染力は、有効な抗菌薬を服用し始めてから二十四時間経てば、ほぼなくなるとされています。そのため、診断を受けた翌日までは休み、翌々日から出勤する、といった対応が現実的です。熱がないからといって感染対策を怠ると、気づかないうちに周囲の人、特に免疫力の弱い子供や高齢者に感染を広げてしまう可能性があります。社会の一員として、責任ある行動を心がけることが大切です。