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溶連菌なのに熱なし。考えられる理由と体のメカニズム
同じ溶連菌に感染しても、高熱を出して苦しむ子供がいる一方で、熱が出ずに喉の痛みだけで済んでしまう大人がいます。この違いは、一体どこから来るのでしょうか。その背景には、年齢と共に変化する私たちの「免疫システム」の応答の仕方が深く関わっています。溶連菌感染症の症状は、大きく二つの要素によって引き起こされます。一つは、溶連菌そのものが産生する毒素による直接的な作用。もう一つは、侵入してきた溶連菌に対して、私たちの体の免疫システムが戦うことで起こる「炎症反応」です。高熱や体のだるさといった全身症状は、主にこの後者の炎症反応によって引き起こされます。免疫システムが、敵である溶連菌を攻撃するために「サイトカイン」という様々な情報伝達物質を放出します。このサイトカインが、脳の体温調節中枢に働きかけて熱を出させたり、全身の倦怠感を引き起こしたりするのです。子供、特に幼児期や学童期の子供は、まだ免疫システムが発達途上にあり、様々な病原体に対する経験値も少ない状態です。そのため、溶連菌のような手強い細菌が侵入してくると、免疫システムが「敵が来たぞ!」と過剰に反応し、サイトカインを大量に放出して、全身を巻き込む派手な炎症反応、つまり高熱や強い倦怠感を引き起こしやすいのです。一方、大人は、これまでの人生で様々な細菌やウイルスに感染してきた経験から、ある程度の免疫記憶を持っています。また、免疫システム自体も成熟しているため、子供ほど過剰な反応を示さず、より効率的に病原体に対処しようとします。そのため、溶連菌に感染しても、全身にサイトカインがばらまかれるような派手な戦いにはならず、感染が起きた喉の局所的な炎症にとどまることがあります。その結果、高熱といった全身症状が出にくく、「熱なし」の溶連菌感染症となるのです。しかし、これは決して体が溶連菌を軽視しているわけではありません。静かに、しかし確実に戦っている状態です。だからこそ、症状が軽くても油断せず、抗菌薬でしっかりと援護射撃をしてあげることが、体を守る上で非常に重要になるのです。
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私の溶連菌体験記。熱なし、喉の激痛との戦い
それは、締め切りに追われる忙しい週の半ばでした。朝起きると、喉に軽い違和感がありました。季節の変わり目だし、乾燥のせいだろう。そう高を括って出社したのですが、午後になると、その違和感は明らかに「痛み」へと変わっていました。特につばを飲み込むと、喉の奥にガラスの破片が刺さったかのような、鋭い痛みが走ります。しかし、熱を測っても平熱。体のだるさもほとんどありません。ただ、ひたすらに喉だけが痛い。その夜、夕食を摂ろうとしましたが、固形物を飲み込むのが苦痛で、ほとんど食べることができませんでした。市販ののど飴やトローチを試しましたが、気休めにもなりません。翌日になっても、痛みは引くどころか増すばかり。声もかすれてきました。さすがにこれはおかしいと思い、会社の近くの耳鼻咽喉科に駆け込みました。医師は私の喉を見るなり、「ああ、これは真っ赤に腫れていますね。溶連菌の検査をしましょう」と言い、長い綿棒で喉の奥をこすられました。待つこと十分。診察室に呼ばれると、検査キットにはっきりと陽性のラインが出ていました。「溶連菌ですね。熱が出ない大人の方、結構いるんですよ」と医師は言いました。診断がつき、処方されたのはペニシリン系の抗菌薬と、痛みを和らげるための鎮痛剤でした。薬局で薬を受け取り、すぐに一回分を服用。その日の夜には、あれほどひどかった喉の激痛が、少し和らいでいるのを実感できました。翌朝には、食事もなんとか摂れるように。薬の効果は絶大でした。医師からは、「症状がなくなっても、合併症予防のために十日間、必ず薬を飲み切ってくださいね」と、強く念を押されました。熱がないことで、ただの風邪だと軽く考え、受診を先延ばしにしていたらどうなっていたか。あのまま放置していたら、後になって腎臓や心臓の病気を発症していたかもしれない。そう思うと、ぞっとします。喉の尋常ではない痛みは、体からの重要なSOSサインなのだと、この経験を通して痛感しました。