-
熱中症で吐き気が。病院へ行くべき?何科を受診?
夏の暑さの中で、急に胃がムカムカし始め、吐き気に襲われた時、どのように対処すればよいのでしょうか。そして、どのタイミングで病院へ行くべきか、もし行くなら何科を受診すればよいのか、判断に迷うことがあるかもしれません。熱中症による吐き気は、軽症から重症へと移行する過程で見られる重要なサインであり、その後の対応が予後を大きく左右します。まず、吐き気や胃の不快感を感じたら、その場で直ちに応急処置を開始することが絶対条件です。涼しい場所(冷房の効いた室内や木陰など)へ移動し、衣服を緩めて体を冷やします。特に、首筋や脇の下、足の付け根といった太い血管が通っている場所を、濡れたタオルや保冷剤で冷やすと効果的です。そして、水分と塩分を補給します。この時、ただの水をがぶ飲みするのではなく、汗で失われた塩分(電解質)も一緒に補給できる経口補水液やスポーツドリンクを、少量ずつ、こまめに飲むことが重要です。では、病院へ行くべきかどうかの判断基準は何でしょうか。応急処置をしても吐き気が治まらない、あるいは実際に嘔吐してしまった場合は、迷わず医療機関を受診してください。嘔吐してしまうと、口から水分を補給することができなくなり、脱水症状が急速に悪化する危険性があるからです。また、吐き気に加えて、「激しい頭痛がある」「ぐったりして意識がはっきりしない」「呼びかけへの反応がおかしい」「自分で水分が摂れない」といった症状が見られる場合は、すでに中等症以上の熱中症に進行している可能性が高く、救急車を呼ぶこともためらってはいけません。受診する診療科については、日中の診療時間内であれば、まずは「内科」を受診するのが一般的です。内科医は熱中症の診断と初期治療に対応できます。しかし、症状が重い場合や、夜間・休日の場合は、総合病院の「救急外来」を受診するのが最も確実です。救急外来では、点滴による水分・電解質の補給や、全身状態の管理といった、迅速で適切な処置を受けることができます。吐き気は、体が発する限界のサイン。そのサインを正しく受け止め、迅速に行動することが、重症化を防ぐ鍵となります。
-
子供の肺炎。小児科受診のタイミングと親の観察ポイント
子供は大人に比べて体力や免疫力が未熟なため、風邪をこじらせて肺炎になってしまうことも珍しくありません。しかし、まだ自分の症状をうまく言葉で伝えられない小さな子供の場合、その異変に気づいてあげられるのは、一番身近にいる親だけです。子供の肺炎を見逃さず、適切なタイミングで小児科を受診するために、親が知っておくべき観察ポイントがいくつかあります。まず、最も注意深く見てほしいのが「呼吸の状態」です。子供の肺炎では、呼吸が速く、浅くなるのが非常に特徴的です。静かにしている時の呼吸の回数を数えてみましょう。年齢によって正常範囲は異なりますが、目安として、乳児(1歳未満)で1分間に50回以上、幼児(1〜4歳)で40回以上であれば、呼吸が速い(多呼吸)と判断します。また、呼吸のたびに小鼻がヒクヒクと動く「鼻翼呼吸」や、鎖骨の上や肋骨の間がペコペコとへこむ「陥没呼吸」、息を吐く時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする「喘鳴(ぜんめい)」が見られる場合は、呼吸がかなり苦しいサインであり、緊急性が高い状態です。次に、「機嫌と顔色」です。いつもよりぐったりしていて元気がない、あやしても笑わない、顔色が悪い(青白い、土気色)、唇の色が紫色っぽい(チアノーゼ)といった症状は、体内の酸素が不足している危険な兆候です。また、水分や食事をほとんど受け付けない場合も、脱水症状のリスクがあり注意が必要です。さらに、「咳と熱」も重要な指標です。激しい咳が続き、夜も眠れないほどであったり、高熱が数日間下がらない場合も、単なる風邪ではない可能性を考えなければなりません。これらの観察ポイントのうち、特に「呼吸の異常(速い呼吸、陥没呼吸など)」や「顔色の悪さ」、「ぐったりして水分も摂れない」といった症状が見られた場合は、様子を見ずに、たとえ夜間や休日であっても、すぐに小児科を受診するか、救急外来に相談してください。子供の肺炎は進行が早いことがあります。親の「いつもと違う」という直感を信じ、早めに行動することが、子供の命を守ることに繋がります。
-
肺炎はうつる?感染経路と周りの人ができること
家族や職場の同僚が肺炎と診断された時、「自分にもうつるのではないか」と心配になるのは自然なことです。肺炎の感染力や感染経路は、その原因となっている病原体によって大きく異なります。正しい知識を持つことが、不必要な不安を解消し、適切な感染対策に繋がります。まず、肺炎そのものが人から人へ空気感染のように直接うつる、というわけではありません。肺炎は、あくまで肺という臓器に炎症が起きている「状態」を指す言葉です。問題となるのは、その肺炎を引き起こしている「原因となる病原体(細菌やウイルス)」が、人から人へ感染するかどうかです。例えば、市中肺炎の原因として最も一般的な「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」は、もともと多くの人の鼻や喉に常在している菌です。健康な状態では問題を起こしませんが、風邪などで免疫力が低下した時に、肺にまで入り込んで肺炎を引き起こします。これらの菌は、感染者の咳やくしゃみによって生じる飛沫(しぶき)を吸い込むことで、他の人にうつる可能性があります(飛沫感染)。同様に、「インフルエンザウイルス」が原因の肺炎も、インフルエンザ自体が飛沫感染や接触感染で広まります。また、「マイコプラズマ」や「クラミジア」といった非定型肺炎の原因となる病原体も、比較的感染力が強く、家庭内や学校、職場などで小さな流行を起こすことがあります。では、周りの人はどうすればよいのでしょうか。基本的な感染対策は、風邪やインフルエンザの予防と同じです。まず、「マスクの着用」です。患者さん本人も、周りの人もマスクをすることで、飛沫の拡散と吸い込みを大幅に減らすことができます。次に、「手洗い・手指消毒」の徹底です。咳やくしゃみを手で押さえた後、その手でドアノブやスイッチなどに触れると、ウイルスや細菌が付着します。他の人がそれに触れ、その手で目や鼻、口を触ることで感染が広がる(接触感染)ため、こまめな手洗いやアルコールによる手指消毒が非常に有効です。そして、患者さんが十分に休養できる環境を整え、部屋を適切に換気することも大切です。過度に恐れる必要はありませんが、基本的な感染対策をしっかりと行うことで、感染のリスクを最小限に抑えることができます。
-
喉の痛みだけ?大人の溶連菌で受診すべき診療科
喉が焼けるように痛い。唾を飲み込むのさえつらい。でも、熱はないし、体もそれほどだるくはない。こんな時、あなたならどうしますか。「市販の喉スプレーで様子を見よう」「いつもの風邪だろう」と考えてしまうかもしれません。しかし、その「喉の痛みだけ」という症状こそ、大人の溶連菌感染症の隠れたサインである可能性があります。熱が出ないことで油断し、受診が遅れると、思わぬ合併症に繋がることもあるため、適切な診療科を知っておくことが大切です。溶連菌感染症が疑われる場合に、最も専門的な診断と治療が受けられる診療科は「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科医は、喉の粘膜の状態を直接、詳細に観察するプロフェッショナルです。喉の奥(咽頭・扁桃)が真っ赤に腫れていないか、白い膿(白苔)が付着していないか、口蓋垂(のどちんこ)の周りに点状の出血(点状紅斑)がないか、といった溶連菌感染症に特徴的な所見を、専門的な視点で見極めることができます。そして、診断を確定させるために、喉の粘膜を綿棒でこすって調べる「迅速検査」を行います。この検査は、十数分程度でその場で溶連菌がいるかどうかを判定できる非常に優れた検査です。この迅速検査で陽性となれば、診断は確定です。もちろん、かかりつけの「内科」でも、溶連菌の診断と治療は可能です。多くの内科クリニックでも迅速検査キットを備えており、一般的な溶連菌感染症であれば、内科で十分に対応できます。普段から自分の体調を把握してくれているかかりつけ医がいる場合は、まずそこで相談するのも良いでしょう。重要なのは、熱がないからといって自己判断で済ませないことです。特に、家族内(特にお子さん)で溶連菌にかかった人がいる場合や、喉の痛みが尋常ではないと感じる場合は、感染の可能性がより高まります。耳鼻咽喉科または内科を受診し、迅速検査で原因をはっきりさせ、もし溶連菌であれば、合併症を防ぐために処方された抗菌薬を最後までしっかりと飲み切る。それが、熱のない大人の溶連菌感染症と正しく向き合うための鉄則です。
-
リウマチの初期症状。見逃してはいけない体からのサイン
関節リウマチは、早期に発見し、早期に治療を開始することが、将来の関節破壊を防ぎ、生活の質を維持する上で何よりも重要です。そのためには、リウマチの初期に現れる特徴的なサインを見逃さないことが大切です。多くの人が経験する典型的な初期症状を知り、自分の体調と照らし合わせてみましょう。最も特徴的な症状の一つが、「朝のこわばり」です。朝、目が覚めた時に、特に手の指の関節がこわばって動かしにくい、グーやパーがしにくい、という感覚です。このこわばりは、体を動かし始めると徐々に改善していくのが特徴で、通常三十分から一時間以上続く場合にリウマチが疑われます。単なる寝起きのむくみとは持続時間が異なります。次に、「関節の痛みと腫れ」です。リウマチの関節炎は、左右対称に起こりやすいという特徴があります。例えば、右手の指の関節が痛めば、左手の同じ指の関節も痛くなる、といった具合です。特に、手の指の第二関節(PIP関節)や付け根の関節(MP関節)、手首の関節は、初期から症状が出やすい部位です。足の指の付け根の関節も同様です。腫れは、関節が熱っぽく、ブヨブヨとした感じになります。触ると痛みを感じる「圧痛」も伴います。これらの関節症状に加えて、リウマチは全身性の疾患であるため、「全身の倦怠感」や「微熱」、「食欲不振」、「体重減少」といった、風邪に似たような症状が続くこともあります。なんとなく体がだるい、疲れやすい状態が何週間も続く場合は注意が必要です。また、皮膚の下にできる「リウマトイド結節(しこり)」も特徴的な所見ですが、これはある程度病気が進行してから現れることが多いです。これらの症状が一つではなく、複数当てはまる場合、特に「朝のこわばりが一時間以上続く」「複数の関節が腫れて痛む」「症状が左右対称性である」という三つのポイントが揃うと、関節リウマチの可能性はかなり高くなります。思い当たる節があれば、自己判断で様子を見ることなく、できるだけ早くリウマチ科や膠原病内科を受診してください。
-
熱中症の隠れたサイン。胃の不快感を見逃すな
夏の厳しい暑さの中、めまいや立ちくらみ、大量の汗といった症状が現れると、多くの人が「熱中症かもしれない」と警戒します。これらは確かによく知られた熱中症のサインですが、実は見過ごされがちな、しかし非常に重要な初期症状の一つに「胃の不快感」があります。なんとなく胃がムカムカする、食欲が全くわかない、吐き気がする。こうした消化器系の症状は、体が熱中症の危険領域に足を踏み入れていることを示す、重要な警告サインなのです。では、なぜ熱中症で胃が気持ち悪くなるのでしょうか。そのメカニズムは、体の防御反応と深く関わっています。高温環境下で体温が上昇すると、私たちの体は、体温を下げるために懸命に働きます。その最も重要な手段が、皮膚の血管を拡張させて血流を増やし、体内の熱を外へ逃がすことです。この時、体は生命維持に不可欠な脳や心臓への血流を優先的に確保しようとするため、相対的に、消化管(胃や腸)への血流が減少してしまいます。血流が減った胃や腸は、正常に機能することができなくなります。胃の動き(蠕動運動)は鈍くなり、消化液の分泌も低下します。その結果、食べ物が胃に停滞しやすくなり、胃もたれやムカムカ感、吐き気といった不快な症状が引き起こされるのです。つまり、胃の気持ち悪さは、「今、体は皮膚から熱を逃がすことに全力を注いでいて、消化活動にまで手が回りません!」という、体からの悲鳴にも似たメッセージなのです。この初期サインを見逃し、適切な対処をせずに暑い場所に居続けたり、水分補給を怠ったりすると、症状はさらに進行します。頭痛や倦怠感が強まり、やがては意識障害や痙攣といった、命に関わる重篤な状態(重症熱中症)へと移行してしまう危険性があります。夏の屋外活動中や、暑い室内で過ごしている時に、原因不明の胃の不快感や吐き気を感じたら、それは単なる夏バテや食あたりではありません。熱中症の初期症状である可能性を強く疑い、直ちに涼しい場所へ避難し、水分と塩分を補給するという、基本的な応急処置を徹底することが何よりも重要です。
-
手足口病のサインは足の甲にも現れる
手足口病は、その名の通り、手のひら、足の裏、そして口の中に特徴的な水疱性の発疹が現れる夏風邪の一種です。しかし、この病気の発疹は、必ずしもその三つの部位だけに限定されるわけではありません。特に見落とされがちでありながら、診断の重要な手がかりとなるのが「足の甲」に現れる発疹です。多くの場合、保護者の方は手のひらや口の中の変化に最初に気づきますが、靴下や靴で隠れている足の甲にも、同じように発疹が出ているケースは非常に多く見られます。足の甲に現れる発疹は、初期には数ミリ程度の小さな赤い斑点として始まります。それが次第に中心部が少し盛り上がった水疱へと変化していきます。水疱瘡の水疱のように大きくパンパンに膨らむことは少なく、米粒大ほどの少し硬い感じの水疱であることが特徴です。この発疹は、足の甲全体に散らばることもあれば、足の指の付け根あたりに集中することもあります。さらに、足の裏や側面、かかと、足首の周りにまで広がることも珍しくありません。なぜ足の甲にも発疹が出るのでしょうか。手足口病の原因となるエンテロウイルス属のウイルスは、血流に乗って全身を巡ります。そして、ウイルスの種類や感染した人の体質によって、特定の皮膚領域に炎症反応を起こしやすい性質があります。手のひらや足の裏といった、皮膚が厚く刺激を受けやすい場所が典型的な好発部位ですが、同様に外部からの刺激を受けやすい足の甲も、ウイルスにとって格好の活動場所となるのです。特に、歩行時の靴との摩擦などが、症状を顕在化させる一因とも考えられています。したがって、子供が熱を出したり、口の中を痛がったりして機嫌が悪い時には、手のひらと口の中だけでなく、必ず靴下を脱がせて足の甲や足の裏までくまなく観察することが、手足口病の早期発見に繋がる重要なポイントと言えるのです。
-
リウマチは関節だけじゃない。全身に及ぶ影響と専門科の重要性
関節リウマチというと、多くの人は関節が変形し、痛む病気というイメージを持つでしょう。しかし、それはリウマチの一つの側面に過ぎません。関節リウマチは、免疫システムの異常が全身に影響を及ぼす「全身性疾患」であり、関節以外の様々な臓器に合併症を引き起こす可能性があることを理解しておくことが、適切な治療と健康管理のために非常に重要です。リウマチの炎症は、関節を包む「滑膜(かつまく)」という組織で最も強く起こりますが、この炎症を引き起こす原因物質(炎症性サイトカインなど)は、血液に乗って全身を巡ります。そのため、体のあらゆる場所で、静かながらも悪影響を及ぼすのです。例えば、リウマチ患者さんで特に注意が必要なのが「間質性肺炎(かんしつせいはいえん)」です。これは、肺の組織が硬くなってしまう病気で、進行すると乾いた咳や息切れといった症状が現れ、呼吸機能が低下します。重症化すると命に関わることもあるため、定期的な胸部レントゲンやCTでのチェックが欠かせません。また、血管そのものに炎症が起こる「血管炎」も、皮膚の潰瘍や神経障害など、多彩な症状を引き起こすことがあります。眼にも症状が出ることがあり、強膜炎や上強膜炎といった目の充血や痛みを伴う病気を合併することもあります。さらに、リウマチの慢性的な炎症は、動脈硬化を促進させることが分かっています。そのため、リウマチ患者さんは、一般の人に比べて心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系の病気を発症するリスクが高いとされています。このように、リウマチは関節だけの問題ではなく、肺、血管、眼、心臓など、全身の健康を脅かす可能性を秘めた病気なのです。だからこそ、全身を総合的に診ることができる「リウマチ科」や「膠原病内科」といった内科系の専門医による管理が不可欠となります。専門医は、関節の症状をコントロールするだけでなく、常にこれらの合併症にアンテナを張り、必要な検査を計画的に行い、早期発見・早期治療に努めます。関節の痛みと向き合うことはもちろん、全身の健康を守り抜くこと。それが、現代のリウマチ専門医に課せられた重要な使命なのです。
-
睡眠薬は怖い?専門医と考える薬物療法のウソ・ホント
不眠症の治療と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべ、そして同時に不安を感じるのが「睡眠薬」の存在ではないでしょうか。「一度飲み始めたらやめられなくなるのでは(依存)」「副作用が怖い」「だんだん効かなくなるのでは(耐性)」。こうしたネガティブなイメージから、薬物療法に強い抵抗感を抱く方は少なくありません。しかし、そのイメージは、一昔前の古い情報に基づいている可能性があります。現代の睡眠薬治療は、安全性と効果のバランスを重視し、大きく進化しているのです。確かに、かつて主流だったバルビツール酸系や、一部のベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、依存性やふらつき、翌日への持ち越しといった副作用が問題となることがありました。しかし、現在、不眠症治療の第一選択薬として用いられることが多いのは、「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」や「メラトニン受容体作動薬」、「オレキシン受容体拮抗薬」といった、より安全性が高く、依存のリスクが少ない新しいタイプの薬です。これらの薬は、脳内の特定の物質にだけ作用することで、自然な眠りに近い状態を導き出すように設計されています。また、睡眠薬には、作用時間の違いによっていくつかの種類があります。寝つきが悪い「入眠障害」には、すぐに効果が現れて翌朝には残りにくい「超短時間型」や「短時間型」が、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」には、もう少し長く効果が続く「中間型」が用いられるなど、専門医は患者さんの不眠のタイプに合わせて、最適な薬を的確に使い分けます。治療の原則は、「必要最小量から始め、漫然と続けない」ことです。睡眠薬は、あくまでつらい不眠症状を一時的に緩和し、生活リズムを整えるための「補助輪」のようなものです。薬物療法と並行して、生活習慣の改善や、後述する認知行動療法といった根本的な治療を進めていくことが重要です。専門医の指導のもと、用法・用量を守って正しく使用すれば、睡眠薬は依存を恐れるべき怖い薬ではなく、快適な睡眠を取り戻すための心強い味方となってくれるのです。
-
肺炎の診断。病院ではどんな検査をするのか?
「肺炎かもしれない」と不安を抱えて病院を受診した際、医師はどのような手順で診察し、診断を確定させていくのでしょうか。そのプロセスを知っておくことで、患者さん自身の不安を和らげることができます。肺炎の診断は、問診、診察、そして各種検査の結果を総合的に判断して行われます。まず、診察室で最初に行われるのが「問診」です。いつから、どのような症状(咳、熱、痰、息苦しさなど)があるか、痰の色や量はどうか、持病やアレルギー、喫煙歴の有無、最近の海外渡航歴など、診断の手がかりとなる情報を詳しく聞き取ります。次に、医師による「診察」です。特に重要なのが「聴診」です。医師は聴診器を胸に当て、呼吸音に異常がないかを確認します。肺炎を起こしている部分では、炎症によって生じる「プチプチ」「ゴロゴロ」といった雑音(副雑音)が聴こえることがあり、これが診断の重要な手がかりとなります。また、血中の酸素飽和度(SpO2)を指先で簡単に測定し、体内の酸素が不足していないかもチェックします。これらの診察で肺炎が強く疑われると、診断を確定させるための検査に進みます。最も基本的で重要なのが「胸部レントゲン(X線)検査」です。レントゲンを撮ることで、肺のどの部分に炎症が起きているかを、白い影(浸潤影)として画像で確認することができます。肺炎の確定診断には、このレントゲンでの異常所見が不可欠です。炎症の程度や広がりをより詳しく調べるために、「胸部CT検査」が行われることもあります。さらに、原因となっている病原体を特定するために「血液検査」や「喀痰(かくたん)検査」も行われます。血液検査では、白血球の数やCRPという炎症マーカーの値を調べることで、炎症の強さを評価します。喀痰検査では、患者さんに出してもらった痰を顕微鏡で観察したり、培養したりして、原因菌を特定し、どの抗菌薬(抗生物質)が有効かを調べます。その他、尿中の抗原を調べる迅速検査で、肺炎球菌やレジオネラ菌の感染を診断することもあります。これらの検査結果を総合的に判断し、医師は肺炎の診断を下し、原因に応じた最適な治療法を選択していくのです。