食中毒の症状は、多くの場合、数日の安静と適切な水分補給で自然に改善していきますが、中には命に関わる重篤なケースも存在します。病院の何科に行くべきかという議論以上に重要なのは、「今すぐ行くべきか」という判断です。医学的に見て、緊急外来を受診すべき「レッドフラッグ(危険信号)」はいくつかあります。第一に、重度の脱水症状です。口の中が異常に渇く、尿が半日以上出ない、立ち上がった時に激しい立ちくらみがする、目が窪んで見えるといった兆候は、体内の水分が危機的なレベルまで減っている証拠であり、内科での緊急点滴が必要です。第二に、高熱を伴う場合です。三十八度五分以上の熱が続き、意識が朦朧としたり、強い寒気が止まらなかったりする場合は、菌が血液中に侵入する菌血症や敗血症のリスクがあります。第三に、激しい腹痛と嘔吐の持続です。一日に十回以上の嘔吐があり、水すら一滴も受け付けない状態が続くと、電解質バランスが崩れて心臓に負担がかかる恐れがあります。また、第四の兆候として、便に鮮血や粘液が混じる血便が挙げられます。これはカンピロバクターや腸管出血性大腸菌(O157など)といった毒性の強い細菌が腸壁を傷つけている可能性があり、重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)という腎不全を伴う合併症を引き起こすことがあります。これらの症状がある場合は、通常のクリニックの診療時間を待たず、救急車を呼ぶか、救急外来を受診してください。受診先としては、内科医や消化器内科医が常駐している二次救急以上の病院が望ましいです。また、高齢者の場合は、典型的な症状が出にくく、単に「元気がない」「食欲がない」といった変化から一気に衰弱することが多いため、周囲の家族が早めに内科へ連れて行くことが肝要です。逆に、嘔吐や下痢はあるものの水分は摂れており、熱も微熱程度であれば、翌朝まで待って近所の内科を受診しても間に合います。その際は、OS―1などの経口補水液を少しずつ、こまめに摂取して脱水を防ぐ「ホームケア」が病院に行くまでの間の最も有効な手段となります。自分の状態を客観的に観察し、これらのレッドフラッグに一つでも当てはまるなら、迷いは禁物です。食中毒という言葉に安心せず、体が出しているSOSを正しく読み取ることが、最悪の事態を回避する唯一の方法です。
食中毒の症状別に解説する緊急外来を受診すべきレッドフラッグ